東京秋葉原から程近い駅にある新宿。
そこを北に下ると四ツ葉町という街がある。小さな町だが元々は商店街通りだったため活気があり、昔は四ツ葉町商店街として名を馳せた。
今はクローバータウンストリートと名を変えているが、当時の佇まいは壊さぬまま新しい風を取り入れていた。

と、そのとある喫茶店で、ちょっとした事件は起こった。



「ああっ・・や、やっと来てくれたっ!助かったぜ大輔!祐喜!」

茶髪に染めた髪の線の細い男子中学生。
その視線の先には目つきの鋭いヤンチャ系の顔つきをした坊主頭の小柄な少年と、そのすぐ後ろに逆立った髪の毛の気合いの入った感じの少年がいた。

「おう!相手何人だよ?」

「ろ・・6人もいるんだよ・・・全員高校生でヤバそうでさ・・・オレらじゃどうしようもなくって・・・」

「相手ドコのヤツラだ?」

「あ・・あの制服・・確か田和場第一高校(たわばだいいちこうこう)だよ」

「へっ・・タワ高の連中か・・オッケイ!皆殺しだぜ!なあ大輔!」

「ったく・・・っぜえってんだよ。早くすませねえと撮りの時間始まっちまうってのに・・・」

気合い十分でワクワク顔の坊主頭の少年とは対照的にツンツン頭の少年は面倒くさそうに呟いた。






「・・・あっ!だ、大輔くん!」

「あぁん?何だテメエら?」

中に入るといきなり眼に着いた。
自分達の学校、愛治学園のブレザーを囲む濃緑の学ラン生たち、皆髪を染めたり剃り込みを入れたりと完全に不良学生とわかる出で立ちをしている。
その学生たちに囲まれる頼りなさげな中学生が2人、入って来た大輔と祐喜を見て顔色を変えて声を上げる。

その中にズイと進みこんでまず大輔が言った。

「すんませんねえ・・・ソイツら、ウチのガッコーのモンなんスよ・・・放してやっちゃあくれませんかね?」

「おうおう、つーことはお前らかあ?愛治で名ぁ上げてるってぇ中坊は!?」

「最近目立ってチョーシくれてるみてぇじゃねえか?あぁん?オイ」

「・・・・チッ・・オイ、祐喜。ロクニぃだぜ?1人3人か?メンドくせえだろオイ?」

「・・・・」

小声でそんなコトを大輔が傍らにいる祐喜に言うがそれに答えない祐喜。
そんな彼に学ランの中の1人が詰め寄る。

「おい、コッチのコボーズ話聞いてねえぞ?」

「生意気なツラぁしてんぜ・・・なんとか言ったらどうなんだ?それともビビって声もでねえってか?なあ・・・オイ・・・・テメエ、シカトかコラア!?」

「あふ・・・ぁ」

「!!・・・・欠伸なんざ・・たれてんじゃねえぞぉオイ!」

思い切り怯えさせるつもりでメンチを切ったのにナメているように祐喜が欠伸をしたことにキレ、ついに茶髪のロン毛の少年が殴りかかった。
祐喜の顔面に拳がめり込む・・・





そのハズだった。




              ガシャアァーーーンッッ!



と、ガラスが弾ける甲高い音が響き渡る。



「うわぁあーーっっなっなんだあっ?」 「ケンカだケンカぁー!学生同士だぞぉ!」 「通報しろ通報っ!」

そんな喧騒が辺りを店内を包み込む。
乱闘の狼煙となったのは学生の1人が窓ガラスに突っ込み派手に割れたからだった。
そしてその少年はまぎれもなく、祐喜に殴りかかった少年だった。


「ぐああぁぁっっっ」

「うわっ!なんだコイツ!?」 「いきなり暴れ出しやがった!」 「くそがあっ!押さえつけろ!」

「何だテメエらあっ!?数いるからってナメてんじゃねえぞぉっ!」

「るっせえっ!このガキがっ!」 「押さえろ押さえろっ!チビのクセになんてえ力だコイツっ!」

殴りかかって来た1人を投げ飛ばし、さらに近場にいたもう1人の少年の襟首を掴んで拳を連発で叩き込む祐喜。
予想していなかった先制攻撃に残りの5人が血相を変えて彼1人になだれ込み、その体を拘束しようと掴みかかる。
しかし力が強い、相手は中学生。しかし高校生である自分たちより遥かに馬力がある。3人まで祐喜の体に取り付いた時、祐喜の正面から反撃を加えようとした少年を背後から膝蹴りを叩き込んでズドン!と撃墜したのは大輔だった。

「おらあっ!」

「ぐがあぁっ!?」

「放せってんだコラァーっ!」

「ぎゃぶっ!」

「くたばれ!っラァッ!」

不良高校生達の最大の誤算。
それはナメテかかっていたこの2人の中学生が、べらぼうに喧嘩の腕が立つことだった。
自分達より年下だというのにこの異常な喧嘩の強さはなんだ?誤算は焦りを呼び、やがてそれは恐怖に変わった。中の1人が早々に根を上げる。

「わっ・・悪かった。悪かったよ・・もうヤメテくれよぉ・・・」

しかし鼻血を吹いて完全に戦意を喪失している相手に祐喜はさらに掴みかかり、顔面に拳の連打を見舞った。

「うぎゃあぁぁっっ」

「おっ・・オイ!謝ってんじゃねえかよぉっ・・もっ・・もういいだろぉ!」

「るっせえや!テメエらが先に売ってきたんだろォがよ!だったらとことん買ってやんぜコラぁっ!」

祐喜が引き止める少年の言葉を一蹴してさらに拳を振るおうと構えた時だった。
外に出ていた友達の1人が鬼気迫る表情で駆け込んで来たのだ。

「大輔!ヤバイ!通報されたみたいだよっ早く逃げようっ」

「!・・マジか?思ったより早ぇな・・しゃあねえ!」

意識の飛びかけた男の襟首を掴んでいた大輔だがその情報を知るとすぐさま手を放し、祐喜に駆け寄って肩を叩いて店の外に飛び出した。

「祐喜ぃ!ズラかんぞ早くしろっ!」

「あぁ〜ん?」

相手を殴るコトに夢中で気付かなかったが、店の中は水を打ったように静まり返っており、気付けば周りはケガをして戦意を失って座りこんでいる者から、今まで殴っていたヤツのように意識を無くして血まみれで倒れているヤツからでまともに戦うヤツなど見つかりそうもない。
祐喜はペッと唾を吐き捨てると大輔を追って店から飛び出した。


「ったく、いつもオメエはやりすぎなんだよっ!」

「足りねえよっ!こんなんじゃあっ!」

後に残された辛うじて意識のある不良少年たちは、自分達が喧嘩を仕掛けた相手が思いもよらない腕自慢だったことに愕然とし、そしてホッと胸をなでおろした。




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「ねえ、聞いた?知念くんと沢くんの話」  「ああ、大輔くん達でしょ?喫茶店でまたケンカしたんだって」

「相手田和場高校の高校生だったらしいぜ?」  「高校生6人をたった2人で!?ひぇぇ〜・・おっかねえ・・」

「でもカッコ良くない?友達絡まれてたの助けたんだってさぁ〜」  「え〜、アタシはちょっと怖いなぁ〜」

「この辺じゃあ大輔くんと祐喜くんに勝てるヤツはいねえよ」  「ああ、無敵の2人組みだぜ!」




翌日の愛治学園中等部、周囲から聞こえる声に知念大輔はげんなりした様子で隣にいる沢祐喜に言った。

「ったく、お前がやりすぎるからすっかりウワサになっちまってんぜ・・」

「へっ・・いいじゃねえかよ。カッコイイってよ、ムテキだってよぉ!気分いいじゃねえか♪」

気分よさそうに笑顔で答える長年の相棒に大輔は少し眼に不穏な空気を宿すと厳しい口調で返す。

「気分イイだ?そんなんだから野球のバッテリーだって降ろされんだろオメエはよ。オレと1番相性良いし実力あるクセにその喧嘩っ早い性格、いい加減直さねえとマジにヤベエぞ?」

「はあ?」

「大体ケンカ強くたってチヤホヤされんのなんて今のうちだろーが、ケンカして問題起こしてよぉ、他のコトなんにもできなくなったらどうすんだ?ちったぁ後先のコト考えろよ!」

「誰に向かってクチぃ聞いてんだよダイスケぇ・・オレに説教たれてんじゃねえ。テメエも黙らせんぞオイ?」

「あぁ?んだテメエやんのかコラ?」

と、些細なことから小競り合いに発展しそうになった2人を「ハーーイストーップ!」と可愛らしい声で止めた人物がいた。

「またケンカしてる!そんなんじゃ幸せゲットできないぞ!ダイスケ!ユウキくんっ!」

「・・・ラブ?」

「なんだオメエかよ」

「なんだじゃないでしょ!もうっ、またケンカしたんだって?マミヤ先生が呼んでるよ?」

目の前に現れた少女。
桃園ラブに言われて、両者は肩を竦めてラブの方へと歩み寄った。





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「で、どーしてまたケンカなんかしたの?大輔くん、祐喜くんも」

「ダチが絡まれたからだよ。助けてくれって言われたから」

「だからって相手殴ってケンカしたら一緒でしょ?」

「オレは話し合おうと思ってたんだよ。向こうから殴ってきやがったんだ。せーとーぼーえーってヤツだろマミヤ先生」

愛治学園内の生徒指導室。
先の喧嘩で喫茶店に迷惑をかけ、そして相手の高校生にケガをさせた問題の2名を呼びだし、事情を聞いていた藤田麻美耶は、全く反省の色の無い2人に対して頭を抱えた。
普通の生徒であれば、学校の他の指導教諭に任せればよいだけの話だが、この2人の場合はマミヤたち、五車プロモーションの人間に大きく関係があるのだ。なぜか?

「・・・まあ、確かにお店の店長さんのお話では、2人に最初に殴りかかって行ったのは高校生の方だって言ってるし、6対2の状況ならわからなくもないけど・・・」

マミヤはつかつかと歩み寄り、大輔の顔に指を突きつけて言った。

「アナタたちはプリキュア達と同じ五車プロモーション所属のアイドルグループ・新鮮組(しんせんぐみ)のメンバーなのよ?そこそこ顔も売れてるのに・・・問題になったらどうするの!?」

「・・・・スンマセン」

「・・・悪かったっス」

素直に謝られてマミヤはうっ、と言葉に詰まってしまう。
ウチの女の子達も悪いコトした時これくらい素直に謝ってくれたらあんまりお尻叩かなくてもいいのに・・・と思ってしまう。

「い・・いい?とにかく、もうケンカはしないこと!いいわね?約束よ?もし約束破ったら・・アンタたちもオシオキだからね?」

「「・・・はい」」

その返事を聞いて、マミヤは少し胸を撫で下ろした。

そう、知念大輔、沢祐喜は、五車プロモーションから最近デビューした新生の5人アイドルグループ。
新鮮組のメンバーなのだ。
五車プロモーション初の男子グループであり、愛治学園中等部の知念大輔、沢祐喜、御子柴健人(みこしばけんと)、さらには高校生の東隼人(ひがしはやと)と東瞬(ひがししゅん)を加えたメンバーである。
デビュー曲「The Truth」がオリコンチャートで登場していきなり1位を獲得など想像以上の人気を博したためちょっとしたコトでスキャンダルともなればこのコたちが可哀想である。
だからこそマミヤは相手側に非があったとしても大輔たちを呼びだし釘を刺したという訳だ。

「あ!ねえねえマミヤ先生、お話終わったの?」

「ええ、ちょうど今ね。ラブ、美希、大輔くんたち連れてスタジオへ向かって頂戴。先生も今行くから・・・」

「ずるぅ〜い、センセーってばダイスケくんとユウキくんに甘すぎぃ〜・・アタシ達なら絶対にお尻ぺんぺんされてるのに・・・」

そんな不満をもらしながらラブと一緒に指導室に現れたのはチームフレッシュの蒼野美希だ。彼女の姿を見て、先程まで突っ張っていた沢祐喜は顔を真っ赤に染めて直立不動、カタコトのような言葉でしゃべり出した。

「みっ・・みみみっ・・美希さん!?・・い、いたんですか!?」

「もう!ズルイぞ祐喜くん!ケンカなんてしてオシオキ無しなんてっ!先生のお尻叩きってチョ〜痛いんだからね。祐喜くんだって泣いちゃうよ?あーあ、いいなぁ担当の違うコは。いい?もうケンカなんかしちゃダメなんだからね!」

「はっ・・ハイ!わっかりました!二度としませんっス!いやぁ、美希さんすいません。ホントにすいません!今度クレープでも奢りますから」

「ホント?アタシ薫ちゃんのお店のダブルベリー味ね?」

「ハイ!ハイ!わかってます!」

途端に態度がコロっと変わる祐喜。まだまだ可愛げのある相棒の姿に大輔も少し吹き出すとラブが彼に近寄る。

「ったく、ケンカなんて、バカなんだから。ケガしたらどうすんのよこのバカダイスケ!」

「誰がバカだ誰がっ」

「アンタ以外に誰がいんのよっ、ホラ行くよ!ったく、心配させないでよね」

「・・・っへぇ〜・・心配してくれたんだ」

////ちっ・・ちがっ!バカっそういう意味じゃないよっ////もう知らないからっ」

「ハイハイ♪」

と、幼馴染同士のそんな夫婦漫才のようなやり取りをしながらスタジオPCAへと向かうそれぞれ4人だった。




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「よぉ〜しできたぞぉ〜・・サラマンダー!ちょっとコレを見ろコレをぉ!」

「・・・なんですかコレ?ジャギさん」

所変わって悪の秘密結社ワルサ―シヨッカー本社・社長室。
例によって例の如く別に仕事をするわけでもなく、今日も日がな1日ジャギさんと戯れるサラマンダー藤原は急にジャギに呼ばれ、コーヒーとロールケーキ片手にジャギの方へと向かった。
ふと、ジャギの手元に何やら書面のようなものがある。見てみるとそこには「悪党大原則・悪役とはかくあるべき也」と見出しが書いてあり、その下に項目に分かれて箇条書きのようなものが書かれていた。

「・・・コレ、ジャギさんが書いたんですか?」

「そぉ〜うだぁ、これさえ心がければいくらお前の部下どもが無能だろうとプリキュアの小娘どもを叩くことなど造作もあるまいっ!流石は俺様!やっぱ俺様悪のカリスマ!悪の天才!」

「はぁ・・・」

サラマンダーは言われてしげしげとその原則とやらを眺めた。



悪党大原則

第一条・お年寄りは大切にしなくていい!高齢者優先制度なんざクソ喰らえっ!グリーン席にもバンバン座ろう!

第二条・空き缶、ゴミはどんどんポイ捨てして付近のボランティアさんたちを困らせよう!ゴミの分別などしてはいけないよv

第三条・子どもを見つけたらとりあえず泣かせっ!赤ちゃんが寝ていたら叩き起こせ!

第四条・深夜にはご近所さんの迷惑になるように大声でカラオケをしちゃおう!騒音人間を目指すのだっ!

第五条・一か月に一回くらいは万引きをしよう!一週間に一回は喰い逃げをはかろう!お巡りさんに捕まらないように逃げ足の鍛錬を怠るな!

第六条・公衆トイレでウ○コは流すな!そのままにしておけっ!ついでにケツも拭かんでよろしい♪(あ、でもそれはさすがにバッチイから拭いた方がいいんじゃないかなやっぱ・・)



そこには本当になんとも器の小さい悪事が事細かに書かれていた。それを自慢気に見せるジャギさん。サラマンダーは思った。

(この人ってこういうトコ、ホントに可愛いよな本気でやってる所が・・)

「わ・・わかりました。また検討してみますね。しかし・・・この前のウラガノスくんが失敗してこれでザケンナー部隊は全滅かぁ〜・・あ〜あ、ホント手強いなプリキュアのお穣さん方は・・なあ、オリヴィエ〜、なんか弱点ないのぉ〜?」

もはや2人の会話に入ることすら拒絶し、豪奢な社長室のテーブルの上で宿題を進めていたオリヴィエを振り返り、サラマンダーは話しかけた。
最初は関わらない方がいいとばかりに無視を決め込んでいたオリヴィエだったが、父が何度も何度も「なんかな〜い?なぁーなぁー、ねぇーねぇー」とホントに子どものようにうるさかったので溜まらずに答えてしまった。

「うるっさいなぁーっそんなに頼り無いんだったら部署変えればいいだろ?ザケンナー部門しかないわけじゃないんだからっ!いっそのこと別の部門の人に・・・・あ・・・」

「おおっ!それだっ!ザケンナー部門じゃなくって部門を変えればいいんだっ!なぁ〜んだそっかぁ、簡単じゃないかぁ〜vよっし!早速ちょっとウザイナー部門に顔出してこよっと。オリヴィエ、ありがとー!」

閃いたとばかりに意気揚々と喜んで社長室を出て目的の部署に向かうサラマンダー、その背を「あっ!オイ、待てサラマンダー!どこへ行くぅ〜!?」とジャギさんも追いかけていく。
そんな2人の後ろ姿を目でやりながら、オリヴィエは頭を抱えてうな垂れた。




「・・・やっちゃった。うるさかったからつい・・・つぼみ、みんな・・ゴメン・・・」




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「はーい、カットぉー!隼人くんと健人くんよかったよぉ〜♪じゃ、今日の撮りここまでで、お疲れっしたぁー」

「ウース」

「お疲れさまでーす」

スタジオPCA、レッスン室内。
最新曲PVの今日の分の撮影が終わったところで、監督からOKサインが出る。最後の部分を踊りきった新鮮組のメンバー、東隼人(ひがしはやと)と御子柴健人(みこしばけんと)は汗を拭きながらも会心の出来を上げたダンスに笑顔でハイタッチを交わした。

「やったなケント!」

「隼人さんもお疲れ様です」

笑顔であそこのステップがどうだった。ココの振り付けがうまくいったなどとそれぞれの出来を褒め合う隼人と健人、その彼らに後ろからクールにココのステップは振りが1秒程遅かったなどと細かいダメ出しを入れているのは同じメンバーの東瞬。
「弟のクセに生意気だ!」と反論する隼人をまあまあと宥める健人、歯牙にもかけない瞬、それぞれがそれぞれ個性の違う5人のアイドルグループが、五車プロモーションのニューアイドルグループ「新鮮組」であるのだ。




「ハイ、ダイスケ!タオル」

「おう、ワリいな姉ちゃん」

「聞いたわよぉ、ラブちゃんから。またケンカしたんだって?あんまり心配かけちゃダメよ」

「先生、ラブに続いて姉ちゃんまで説教かよ?っぜえなったく・・」

「言われたくないならもっとしっかりしなさいよ」

レッスンが終わった大輔に彼の姉、ミユキがタオルを渡しながら半ば呆れた感じで声をかける。鬱陶しそうに答える大輔だったが、それだけみんなが大輔のコトを思っている証拠だ。
それが今売り出しているアイドルグループの1人だからなのか個人を思いやってのことなのだかはわからなかったが悪い気はしない。

野球バカで野球一筋を相棒の祐喜と小学校の頃から続けていた自分。
不意に巻き込まれた暴力沙汰で無期限の部活停止、それから荒れて喧嘩に明け暮れる毎日。それを救ってくれたのがラブやPCAのメンバー、姉、そしてマミヤ達教師たちだった。
野球がいつできるかはまだわからないが・・・・・



「取り敢えず・・・今はコッチに集中しとくか?なあ祐喜」

「ああ、そう・・だな」


「そう!集中しないとダメよぉ〜、ユウキくん!みんな新鮮組の活躍期待してるんだからねv」

「はぁ〜〜いvvミキさぁ〜んっ!vがんばっちゃいまぁ〜す♪」

そう言って美希に金魚のフンのよろしく後をついて「カオルちゃんがドーナツ作って来てくれたの、みんなと一緒にどう?」と言われて「いやぁもう!ミキさんのお誘いなら例え火の中水の中!」とベロベロになってくっついて行く祐喜。
先日の喧嘩時の戦闘狂のような姿は微塵もない。つくづく可愛いヤツだ。と思いながら大輔も腰を上げた。






「どけ、ラオウ」

「どかぬわ。その1つだけ残っている「期間限定ふんわりカスタードのプディングドーナツ」をどうするつもりだケンシロウ?」

「食べるのだ」

「笑止!その1つだけ残っている「期間限定ふんわりカスタードのプディングドーナツ」はこの「期間限定ふんわりカスタードのプディングドーナツを喰うことの覇王」である俺の物だぁ!」

「ふっ・・北斗神拳の伝承者たるもの食に執着するもまた強者への秘訣!ここは私とて譲れぬ!」

ラブ達が談話室に戻ってみるとそこにはまたオヤツを巡って兄弟喧嘩に発展しようとしているケンシロウ以下北斗三兄弟の姿があった。
周りのプリキュア戦士のお嬢様方、面白そうにニヤニヤ見つめる者、ハラハラドキドキと緊張感持って心配そうに眺める者、またやってると呆れ顔、怒り顔の者と実に多様だった。
そしてバカらしい争いに毎度のことながらこの方が突っ込みを入れる。

「また何くだらないコトで喧嘩始めてんだオイ!ヤメロ!迷惑!ただただ迷惑なんだよっ!」

「黙れぇバットぉ!キサマこの拳王に意見するかぁっ!」

「これは我ら北斗兄弟の問題、他の者は黙っていてもらおう!」

「そう、これは気高き思想に守られた北斗千八百年の歴史ある闘い・・・断じて、断じてお菓子が食べたいからではないっ!」

「いや実際そうなんでしょ!?トキさん!ヘンな意地張らなくていいからアンタも!だったらなんなんだよそのヨダレは!?アンタら揃いも揃って小学生か!?」

低次元な争いにバットの激しい突っ込みの声が響き渡る。



「こんにちワン!バットさん、ねえねえなんなの?ケンシロウ先生達なにしてんの?」

「なんかあったんスか?」

「ん?おお、ラブちゃんに大輔。いやそれがなあ・・あの3人また橘さんの差し入れのドーナツ取り合ってモメてんだよ。ホンっトにガキみてえに毎回毎回・・・大人げねえったら・・ったく」

後ろに現れたラブ達に難波伐斗はもうウンザリ。と言った感じで話した。話を聞いて冷や汗を掻きながら「アハハ・・・」と引きつった笑いをするラブと大輔。

「オイオイ・・・マジか?オヤツぐらいで?スゲエ・・・」

「センセーたち・・流石にヤバイかも・・・」

しかし、そんなまた暴走が起こりそうだった北斗三兄弟を見かねてチームマックスハートの雪城ほのかとチームファイブGOGOの水無月かれんが3人の間に割って入った。

「もう!ケンシロウ先生たち!いつもいつもいい加減にしてくださいっ!」

「そうです、ほのかさんの言うとおりですよ?大人気ないです!」

「なぁにぃ〜?小娘どもがまたしてもうぬらがこの拳王の覇道を遮ろうと言うかぁ〜?身の程を弁えぬその愚行!躯となってつぐな・・・」

「ラオウ!もういい加減にして。他の子達に悪影響でしょ?」

「そうだ。大体北斗の長兄が喰い物にそこまで意地汚くては情けないぞ?」

傍で状況を見守っていた松風麗奈と戸田紅羅にまでそう言われてしまっては流石に拳王さまもそれ以上は言えず、一度引き下がる。
すると春日野うららがポン!と手を叩いて嬉しそうにこう提案した。

「そうだ!みなさんここはジャンケンで決めたらどうです?」

「なに!?」

「ジャンケンとな?」

「ジャンケンだとぉ?」

「そうですよぉ、ジャンケンなら平等だし、恨みっこ無しでできますよぉ♪」

無邪気な笑顔でサラリと言ってのけるうららをジロリと睨みつける北斗三兄弟。そんな様子に周りのプリキュアメンバー達の顔もこわばる。
それはそうだ。いつもかもあんなに超人的な拳法や体術を駆使して力づくで物事を解決しようとする奴らがジャンケンなどと子どもの遊びのような方法で決めようとするはずがない。
場を収めてくれようとするうららの気持ちは嬉しいが、ここは一つ危険が及ぶ前に退いてもらうのが一番だろう。
そう思ってバットがやんわりとうららに声をかける。


「あ〜、うららちゃん?気持ちは嬉しいけど、コイツらジャンケンなんかじゃおさまりつかねえって・・・もっと何か他にやり方が・・・」




「「「いいだろう、そのジャンケン乗った!!!」」」


「いや、やんのかよオメエらっっ!!?」


と、予想だにしていなかった肯定の返事にバットは目を見開いて驚くと同時にまたしても突っ込んだ。

かくして、北斗三兄弟のジャンケン対決の幕が切って落とされたのだった。
しかし・・・


「うわぁぁ〜〜〜・・・何コレ!?」

「すっごぉ〜〜い・・」

周りで見ていたプリキュアメンバーの美翔舞(みしょうまい)と夏木(なつき)りんがそれぞれ圧倒されたように驚いていた。
なんとケンシロウ、ラオウ、トキ、それぞれの手が即座に何度も形を変えながら出されてはアイコを繰り返していたからだ。さながらその掌の動きは人知を超えたスピードで魔法か?とすら思わせる。

「ええぇぇーーー!?」

「スゴイわ・・・即座に相手の拳(けん)の動きを読んで自分の勝てる拳形を探って出してる」

「お互いの手の内を知り尽くし、さらに超人的な動体視力を持っているからこそできる芸当・・・さすがは北斗神拳の継承者というところか・・・」

「何こんなくだらねえ争いにマジメに解説入れてんスか!?しかもたかがドーナツの取り合いだろーが!どんだけ餓えてんだよお前らっ!!」

と、三兄弟の争いを真面目にレポートしていたレイナとベラにバットがまたまた突っ込みを入れ、そのくだらない決着がそろそろつこうかという時だった。




「あ!ドーナツあまってる〜vセンセー達食べないの?んじゃあアタシがもらっちゃうねvあ〜〜んv・・・ぱくっ・・んぐっもぐっv・・うぅ〜〜んvおいひーw今日のアタシしあわせ〜けってーい♪」


「あ・・」

「あ・・」

「あ・・」


なんと三兄弟の争いの根源だった期間限定ふんわりカスタードのプディングドーナツ、笑顔で現場に登場したチーム5GOGOのリーダー、夢原(ゆめはら)のぞみがパクリと一口で食べてしまったのだ。
辺りを包み込む静寂。

誰もが一様に思った。


のぞみ、空気を読め。と・・・



「・・・・食べ・・ちゃいましたね」

「・・・そーね。食べちゃったわね」

「ああ、ものの見事に一口で」

「うにゃ?どーしたのみんな?」



「おのれぇいっ!小娘の分際でぇ!この拳王に楯突くと言うかぁっ!?」

「きゃあぁあぁぁ〜〜〜〜〜っっっ」

「きゃあぁぁっっ?」 「きゃあーーっのっ・・のぞみぃ〜〜っっ」


一拍置いてそんな怒声と少女の悲痛な叫び声があがる。
ラオウがのぞみの襟首を掴んで猫を持つように宙に釣り上げ叱り飛ばしたのだ。当の本人はもちろんのコト、周りで見ていた少女達も悲鳴を上げる。


「我がドーナツ覇道を阻むものは・・例え小娘風情といえども容赦はせんっ!さあ、期間限定ふんわりカスタードのプディングドーナツを出せ。出すのだ・・・ええいっ!出さぬかっ!」

「むりぃ〜〜っっ・・だって食べちゃったもぉ〜んっ・・タスケテぇ〜〜っセンセぇ〜、りんちゃぁ〜んっ・・ふええっコワイよぉ〜〜〜っ」

「のっ・・のぞみぃ〜〜っ・・ちょっと!たしかにのぞみが残ってたドーナツ食べちゃったけどいくらなんでもあんまりですよっ!おろしてあげてくださいっ!」

「なに子ども相手に食いモンのコトでムキになってんだラオウっ!ヤメロってコラぁ!」

まるでどこかのガキ大将のようにドーナツを出せ出せと首根っこを掴みながら言うラオウと泣きながら助けをもとめるのぞみ。
あまりに大人気なくあまりに痛ましい光景に幼馴染の夏木りんやバットもラオウの行為を非難する。流石に止めた方がいいかとレイナやベラも動き出そうとしたが、そこでラオウを止めたのはある人物だった。




「ホラ、ラオウのおじさん。そんなにピリピリしないの、イイ大人がみっともないわよ」

「む?なんだ小娘。うぬもこの拳王に手向かうと言うか?」

「ふえぇぇ〜・・・み、ミキちゃぁ〜〜んっっ」

ラオウの背後に紙箱を持ってあらわれたのは先程祐喜と一緒に部屋に入って来た蒼野美希だった。
彼女は爽やかな笑みを浮かべながらラオウにそう言って近づく。

「可愛い女の子のしたことなんだから笑って許してあげるのがホントの強い男だぞ?ホラ、ココにそのドーナツまだあるから!コレでそのコ許してあげて。ね?」




「フハハハハハハハっ!良い心がけだ娘よ!よし、今日よりうぬを我が親衛隊に加える!俗世を忘れこの拳王の元一身を賭して仕えるがよい!」

「あ〜ゴメ〜ン。アタシそーゆーのまったくキョーミないから。ミキたんの気持ちは、ファンのみんなのものだから!じゃーねオジサン」

「なにぃ!?この拳王の誘いを断ると言うかぁー!?なぁぜだぁ〜?」

「だって・・・ぶっちゃけオジサンが何しようって別にどーだっていいし。とにかく、ウチのメンバーの子にヒドイことしないでね。ホラ、いくわよのぞみちゃん」

「え〜ん、ミキちゃ〜ん・・コワかったよぉ〜・・」

「泣かない泣かない。祐喜く〜ん、ジュース買ってきてぇ〜、お願い」

「ハイ!ミキさん!ただいまぁーっv」

メソメソと泣く夢原のぞみの肩を抱いて祐喜やラブ、大輔たちの方へと向かう美希の背中を見ながらラオウはワナワナと震え、そしてガックリと膝をついた。

「バカな・・・この拳王の力をもってして・・奪えぬものがあろうとは・・・」

「ラオウともあろうものが膝をつこうとは・・・美希の言葉はそれほどまでにYOUはSHOCK!だったのだな、トキ兄さん・・・」

「もはや・・・時代が違うのだケンシロウ」

「こ、このラオウにもまだ涙が残っておったわぁ〜〜・・・」


もはや時代にどれだけ乗り遅れたのかもわからないラオウの行動と考え、ケンシロウとトキも微妙にズレながらもラオウを慰め、そしてバットはつくづくなんでこんなヤツラをウチの社長は雇ったんだ?としみじみ考えた。

(つーか、ラオウ。アンタ結構な割合で毎回泣いてるケドな・・・)

そんなコトも考えながらあのしっかりものの美希をバットは何気なく見つめていた。

(美希ちゃんて、割と頼りになるよな。あんなしっかり者がいてくれればまだまだこの子達も安心か)


「美希さん!のぞみちゃんもうすっかり立ち直ってるみたいっスよ!ジュース飲んだらすっかり笑顔だったじゃないスか?」

「でしょぉ?のぞみちゃんってそういうコなのよ!」


「アタシ、カンペキ!♪v」





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「スタジオPCA成程、ココか。社長の仰る最近我が社に楯突くと言うアイドルグループ。プリキュアの本拠地というのは・・」

スタジオPCAを他ビルの屋上から眺めてそんな風に漏らす1人の男性。
スーツを着込んではいるが、明らかに常人ではない。木の葉をかたどった様な独特のアイマスクをした逞しい男だった。

この男こそ、ワルサ―シヨッカー、ウザイナー部署の社員、名を千葉枯葉(ちばかれは)、コードネーム・カレハーンであった。
彼はそのままの姿勢で目を閉じると、今朝がた社長から与えられた特命を反芻(はんすう)した。




「いやぁ〜、カレハーンくん!私はキミにチョー期待してるんだよね〜。ウザイナー部署の人たちはみんな失敗しちゃってさぁ〜、誰か他に頼れる人いないかなぁ〜と思ってふとウザイナー部門のキミのコトが頭に浮かんだんだよ!さあ、カレハーンくん!私の期待に答えてくれたまえっ!プリキュア戦士のお嬢様方に悪の大人の威厳を見せつけて・・え〜ん、降参でーす。くらい言わせちゃいなさい!♪」

「そぉうだぁー。そして悪を行い去ってくる時には力の限り胸を曝け出してこう言うのだ!俺の名を言ってみろォ!!」




最後のヘルメットを被った怪しげなオッサンの存在と意味不明なセリフの訳は分からなかったが、社長直々に自分に期待してくれていると言われた事がカレハーンくんには嬉しかった。そして気合十分。

「フフフフ・・・見ていろプリキュア・・・貴様らを叩き潰して社長の信頼と臨時ボーナスを頂く!フハハハハハっ!」




「あら美希?そこにいるの」

「え?」

スタジオPCA、レッスンが終わってラブや祈里、せつなと帰ろうと仕度をしていた蒼野美希の耳に、なにやら懐かしい女性の声がした。
思わず振り返る美希、と、彼女は驚きと嬉しさに思わず声を上げた。

「・・・久しぶりね美希、元気だった?」


「あーーーーっ!さ、サクヤ先生っ!」

目の前に立っていたのは、ベラと同じく、イギリス方面へと出張中だった木村朔夜(きむらさくや)という、マミヤ、レイナ、ベラと同じく、プリキュアオールスターズの少女達の教育係でスタイリストでもある女性だった。柔らかな笑みで自分を見つめる彼女に美希は思わず抱きついた。

「おかえりなさいセンセー、どうしたの?帰って来たのぉ?」

「そ、今さっきね。ただいま。みんなは元気?」

「元気元気!ねえねえ楽屋の中に入って!みんな喜ぶわ!」



「あーーーっ!サクヤセンセーがいるぅ〜!」

と、楽屋から出て来て美希と同じく叫んだのは「ミキ〜、明日のモデルの仕事何時までぇ〜?終わったらカラオケ行こう〜v」と言ってきた来海えりかである。
その声に反応して「ウソ!?」「どこどこ?」と日向咲や北条響、美墨なぎさなどの面々が顔を出す。

「きゃ〜vセンセっ!ヤダっウッソ!久しぶりっ!元気だったの?」

「相変わらず元気そうねなぎさ。咲も響もつぼみも・・・みんな変わり無くて先生安心した」

「ほぉら、言った通りでしょ?みんな元気だって・・・よかったねみんな。朔夜先生が帰ってきて」

きゃいきゃい盛り上がる少女達にそう声を掛けながら現れたのは冨永鈴だ。
長めのスカートにカーディガンというカジュアルなスタイルでニコニコと笑いながら歩み寄ってくる。

「リン先輩が連れてきてくれたの?」

「そ。偶然入口でバッタリ朔夜さんに会ってねぇ、明日早速PCAの子のお仕事に付き添いだっていうから案内したのよ」

「え〜?先生ホントなの?誰に誰に!?」


目を輝かせて子どものようにぴょんぴょん飛び跳ねながら聞くえりかに、苦笑しつつも朔夜は答えた。

「明日、「NANTO/GIRLS!」の撮影があるの・・・って言えば、わかるかしら?」

「ナントガールズって・・・あ!ミキちゃんだ!センセーミキちゃんのお仕事付いて行くんだ」

えりかのわかった!という言葉に朔夜はウインクして「そうよ」という風に笑う。

「というわけだから、明日早速よろしくね。美希」

「うん!久しぶりに朔夜先生と一緒のお仕事だからなんか嬉しいなvコッチこそよろしくお願いしまーす!えへへv」

心底嬉しそうな表情の美希、そんな彼女に周りの少女達はいいなぁ〜という視線を送る。
久しぶりの優しいサクヤ先生と一緒にいれることにみんなが羨ましい・・という気持ちになったのだ。







「サクヤ、出張お疲れ様!」

「ええ、レイナもマミヤ先輩も、元気だった?」

「ああ、コイツらはいつも通りだ。もちろん私もな」

「ベラさんもお元気そうで、あ、これみんなにお土産です」

そう言いながら出張先のお菓子をテーブルに並べるサクヤ。歓声を上げながらレイナはお菓子をとり、早速試食してみては「うん!これおいしー♪」と顔を綻ばせる。
時刻は夜の8時。レッスンを終えてとっくに帰ったプリキュア戦士のお嬢様達のいない控室で、マミヤ、ベラ、レイナそれにバットといったPCAスタッフはリンも混ぜてサクヤのささやかな歓迎会を催していた。
料理上手なバットが簡単なおつまみを作り、リンは酒を準備する。
みんな一様に出張先のコトやイギリスでの生活を聞いては話に花を咲かせていた。

「でも、まさかバットくんもウチのスタッフとしてお手伝いしてくれるなんて・・ありがとね」

「へへっなぁに言ってんスか?バイト代ちゃんともらってんだから当たり前ですよ」

「バット結構楽しんでるもんねこの仕事!あ、ねえねえケンはどう?」

と、リンが部屋の隅に向けて声をかけると無言でタダ酒を飲んでいたケンシロウ達北斗三兄弟に一斉に視線が注がれた。


「・・・・・・あ、その・・お久しぶりですね・・・ケンシロウさんやトキさんもそうなんですが・・・なんでウチのスタジオにラオウさんまで?」

「時代がこの拳王を必要としているからだ!」

「・・・なんか知らないけどついてきちゃったんスよ。どのバイトやってもうまくいかなくて・・・ついにはこのPCAスタジオに・・ってかお前ら!そのワイン、サクヤさんにリンちゃんが買ってきた年代モンじゃねえか!いつ開けやがった!」

「い、いいのよバットくん。とにかく、今はあの子達のお世話をしてくれてるワケでしょ?ありがとうございますね3人とも」

「いや・・・世話してるっつーか・・・されてるというか・・なぁ?マミヤさん」

「オヤツのコトでしょっちゅうケンカするもんね。ま、プリキュアのみんなは面白いって言ってるけどv」

引きつったバットとあっけらかんとしたリンの言葉に苦笑するマミヤ達、その様子を見てサクヤは、いろいろとまた大変そうだけど、やりがいがありそうだな。と思った。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「ハーイ、OK!コッチ向いてぇ〜、そう、そう!オトコを誘惑する目つきで!イイ!イイねえ最高だよミキちゃん!」

ココは代々木の方にある若い女性に人気のファッション誌、「NANTO/GIRLS」の撮影スタジオ。

カメラマンがポーズを決める美希を撮るたびに威勢のいい声を上げる。
その声に応じて、美希も本職のファッションモデルに勝るとも劣らない魅力的な表情やポーズで次々に撮影をこなしていった。



「うわぁ〜・・ミキちゃんキレイ〜〜」

「さすがにもともとファッションモデル志望だっただけあるわね、今度小説に彼女を登場させちゃおうかしら?」

「こまちさん、ヤメてくださいよ!またメンバーを使うの・・この間のアタシのキャラも全然違うのになってたじゃないですかぁ!」

「あら?エレンはそのまんまのキャラだったような気がするけど?」

「そうよねぇ〜、意地っ張りでつっけんどんなところがさ!」

「!なによ、アコにくるみまでっ!どーゆーコトよ!」

「ちょっと、ケンカやめなさいよ。ねえ奏ちゃん、あの2人とめたほうが・・・」

「いつものじゃれあいでしょ?大丈夫よほっとけば・・・」

「そうそう、その内もとにもどるナリ♪」

「アコちゃんとエレンちゃんってときどき口ゲンカするよねブッキーv」

「でも、ホントは仲良しだって、わたし信じてる♪」



と、口々に好きな会話をしているのは、本日やるコトが無くて学校の後美希についてきた他のプリキュアメンバー、美翔舞と秋元こまち、黒川エレンに調辺アコ、美々野くるみ、日向咲、それにおなじチームフレッシュの東せつなと桃園ラブ、山吹祈里とチームスイートの南野奏だった。
みんな美希をみてそのキレイな姿に声を上げている。

「ベリーはんはモデルの仕事させても一流やさかいな」

「ぷりっぷ〜、ミキ、キレイ〜v」

「咲にももうちょっとミキみたいなビシッとした雰囲気が欲しいラピー」

「フラッピ、それ言っちゃ咲が可哀想チョピ」

「かわいいドドー」

「みんなの気持ちもわかるレレー」



それに続くようにお供で付いて来た妖精、タルト、シフォン、フラッピそしてチョッピ、そしてフェアリートーンの面々が口々に言う。

もともと蒼野美希はファッションモデル志望であった。
母であるレミが元々アイドルであったこともあり、早くから芸能界でキッズモデルとしてデビューしていた。そのため幼いころから世界一のモデルになるコトを目標に掲げており、プリキュア入りした現在は歌って踊れるスーパービューティーモデルという別の目標になっている。
そのため、レッスンやロケが入っていないオフの日にも美希はモデル活動の仕事をやっているコトが多く、ある意味メンバー内でも中々に過酷な日常をおくっている子といえる。


「ほら、美希は撮影中なんだから、あまり騒がないようにね」

「ハーイ、サクヤ先生!」

「わかってます♪」

付添いのサクヤが騒がしくなってきたプリキュアメンバーをやんわりと注意する。それを笑顔で返すメンバー。
元気なのは相も変わらず、そして騒がしいのも相変わらずの年頃の女子中学生にまったく・・と苦笑のサクヤ先生。
そうこうしているうちに、撮影の休憩時間に入り、バットとリンが入ってきて美希に飲み物を渡す。笑顔でそれを受け取る美希、バットが何気なく話しかける。

「大変だな美希ちゃん、こんな休みの日にまで・・・」

「そうよねぇ〜、いろいろ遊びたい年頃なのに」

「バットさんもリンさんもありがと。でも、モデルになるのが小さい時からのアタシの夢だからね。このくらいなんてことないわ」

「ひゃ〜、芯の強いコだ。根性あるじゃねーか、感心感心。な?リン」

「ええ、ケンもそう思うでしょ?」

「ああ・・・まさに北斗の拳を受け継ぐに相応しい真っ直ぐな心根だ」

と、なんでお前まで付いてきてるんだと言わんばかりの視線をバットにおくられているケンシロウまでもが美希を褒める。みんなから褒められてちょっと照れくさくなった美希は顔を赤らめてほっぺを指で掻いた。
しかし、突然なにかに気付いたように「あ!」と声を上げて立ち上がった。

「いっけない!忘れちゃってたっ!」

そう叫ぶやいなや撮影所を飛び出していく美希。

「ちょっ・・ドコ行くの美希ちゃん!もうすぐ次の撮り始まるよ?美希ちゃん気合入れてた水着のフォト・・・」

「ゴメンなさ〜い、すぐもどりますからぁ〜」

後に残されたバットやリン、サクヤ、そして他のプリキュアメンバーとケンシロウは「どうしたんだ?」という顔をして美希の姿を追った。


「・・・なんか、ミキちゃん忘れ物でもしたのか?なあリン」

「さあ・・・ま、女の子にはいろいろあるでしょv」

(・・・美希ったら・・どうしたのかしら?撮影を放り出す子じゃないのに・・・)








「あ〜、よかったvあっぶな〜い・・・残り数量もう少なかったからヒヤヒヤしちゃったケド・・・なんとかなったわね。え〜・・っと・・支払いは・・・アタシのモバイルポイントと・・あとは・・パパの口座から引き落としちゃえvこの前はママに払ってもらったから♪」

控室へと猛ダッシュした美希は部屋に入るとロッカーを開けて自分の荷物をまさぐると携帯電話を取り出し、急いで操作した。

インターネットに繋ぐと目的のネットショップの項目に行き、高額なミュールを落札する。



そう、蒼野美希は今目下ネットショッピングにハマっているのである。
ネットオークションで落札した小物や服を自分に合わせて自分でコーデするのがたまらなく好きなのだ。
美希のカードは子どもに甘い両親からのものでいつ何時でもお金が入っている。
ママと2人暮らしの美希だがその中には離れて住むパパの財源もちゃっかりと入っている。

もちろん、中学生がネットオークションなど言語道断でPCAのルールの中でも先生達から厳しく禁止されている。美希もそれは重々承知の上であえてやっているのだ。
だからこそ人目を避け、時間を管理して急いでやる必要があった。バレれば勿論ただではすまない。ドキドキのハラハラである。

最近のお気に入りは話題の聖帝十字興行(せいていじゅうじこうぎょう)が母体のネットショッピング会社、「南斗最後の商(なんとさいごのしょう)!」である。ネット通販ながら若い子向けのファッションや小物が幅広く取り揃えてあり今やティーンズ達に大流行しているのだ。


「よぉ〜し、今日はもう1着くらい買っちゃおうかなぁ〜?セール中だしvえぇっとぉ・・・他に確か・・・・あ!vあったあった♪このブラウスも安いのよねぇ〜・・・う〜ん、コレ・・にしよっかな?」

と美希が落札画面をタップしたその時・・




「うわぁ〜〜っっ」 「なっ・・なんだぁー!?」 「事故かぁ!?早く警備員を呼べぇーーっ」




なにやら撮影所の方が突然うるさくなった。
騒々しい音に混じって悲鳴のような声まで聞こえてくる。

「なっ・・なに?」

美希は携帯をしまうと急いで控室を後にして現場に向かった。





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「・・・ってええっ!?何よコレぇっ?」

美希が現場についてみると、そこは騒然雑然とした惨状になっていた。
カメラや照明などの撮影機器は派手に倒れて色々な器具が散らばり、ポスターはズタズタ。ステージの上に飾られていた花はメチャメチャ。
大わらわで騒いでパニックに陥っているスタッフ達の視線の先には枯葉のようなマスクを被った大柄の男が1人、ステージ上で大立ち回りを演じていた。



「見つけたぞプリキュアどもぉ!我が名はワルサ―シヨッカー、ウザイナー部門のカレハーン!サラマンダー社長の名によってお前たちを誅しに来たっ!さあ、大人しく我がワルサ―シヨッカーへ服従を誓え!さもなくば少々痛い目を見てもらうぞ?」

高圧的なもの言いで高笑いするその男。カレハーンを見て、美希は他のプリキュア戦士やサクヤ達のもとに駆け寄る。


「先生!みんなっ!」

「あっ!ミキちゃんっ!」

「もうっ、ドコ行ってたナリ!ワルサ―シヨッカーが現れたのよ」

「先生、今なら・・・」

「そうね・・・みんなあの人に注目したり逃げまどったりしてる・・・今なら変身しても大丈夫よ」


「ようし・・・いくよみんなっ!」

「いっくよーフラッピ!」
「チョッピ!お願いっ」

「ラピーっ!」
「チョピーっ!」

ラブの号令で少女達がそれぞれ変身アイテムを構える。



「「デュアルスピリチュアルパワーッ!」」

「プリキュア・メタモルフォーゼ!」

「スカイローズ・トランスレイト!」

『レッツプレイ!プリキュアモジュレーション!」

『チェインジプリキュア・ビートアップ!』



それぞれがそれぞれの変身呪文を叫ぶとアイテムが光り輝き、少女達の体が光に包まれる。
光が彼女たちの体にコスチュームを形成し、光の中を舞っていた少女達がやがてゆっくりとその姿を現す。


「輝く金の花、キュアブルーム!」

「煌く銀の翼、キュアイーグレット!」


「安らぎの緑の大地、キュアミント!」

「青い薔薇は秘密のしるし!ミルキィローズ!」


「爪弾くはたおやかな調べ、キュアリズム!」

「爪弾くは魂の調べ、キュアビート!」

「爪弾くは女神の調べ、キュアミューズ!」


「ピンクのハートは愛あるしるし、もぎたてフレッシュ!キュアピーチ!」

「ブルーのハートは希望のしるし、つみたてフレッシュ!キュアベリー!」

「イエローハートは祈りのしるし、とれたてフレッシュ!キュアパイン!」

「真っ赤なハートは幸せのあかし、熟れたてフレッシュ!キュアパッション!」



「ふん!現れたか・・・出でよ!ウザイナー!」


少女達の変身を見届けると、カレハーンもそう叫んで空中に手を翳した。
するといきなりザケンナーと良く似た妖気が集まり、今度は濃い緑茶の色をした化け物が「ウザイナー!」と姿を現した。


「ええー!?前とバケモノ違うぅ〜〜っ!?しかもウザイナーって鳴き声と名前テキトーすぎだろ!」

「何を言っている!ウザイナーだからウザイナーなのだ!行けウザイナー!」

「バット、そうだよ。ウザイナーだから仕方ないよねv」

「ウザァ〜イナァ〜っ!」


と、突っ込んだ所をカレハーンやリン、挙句の果てには当のウザイナー自体にまで文句を言われて「るっせえっ!お前がウザイわっ!!」と怒るバット、しかしそんなこんなする間にとうとう化け物が襲いかかって来た。


「来たわよっ!みんな、気を抜かないで!」

サクヤ先生の声に少女達は「はい!」と威勢よく返事し、化け物を正面から迎え撃った。



「やあーーーっっ!」 「えぇーーいっ!」

「はぁーっ!」 「たあっ!」


大立ち回り。
腕を振り回して襲いかかるウザイナーを素早い動きで翻弄しながらパンチやキックを丁寧に浴びせてゆくプリキュア戦士のお嬢様方。

いつの間にか何か映画かプロモーションビデオのゲリラ撮影と勘違いした「NANTO/GIRLS」の撮影スタッフまで「いいぞいいぞ〜」「みんなカワイイーvコッチ向いてぇ〜っv」と野次馬になっていた。
しかしここまで寡黙な表情でジッと戦況を見つめていたカレハーンくんが突然言い放った。



「ふんっ!ウザイナー部門をザケンナー部門と一緒にするなよ?ゆけ!ウザイナーっ!お前の本気を見せてやれ!」


その言葉に奮起したのか?
バケモノは「ウザイナー!!」と気合を入れて吼えると腕をぐるぐると駒のように回転させる。ちょうど突っ込んでいたプリキュア戦士のお嬢様方、派手にカウンターで吹き飛ばされてしまう。


『きゃあぁあ〜〜〜っっ』 『ああぁーーっっ』 『いやぁ〜っっ』

そのまま地面に倒れてしまうみんな。


「ううぅ〜・・」

「いったぁ〜〜い・・・もぉ!何すんのよっ!」

ラブとせつなが文句を言いながらバケモノ恨めしそうに見る。その一方で舞が咲がお尻を押さえて悶絶していることに気付いた。



「うっ・・うっ・・うぅぅ〜・・いたいぃ・・いたいよぉ〜〜ひくっ・・ひぐっ・・」

「ぶ、ブルーム!どうしたの!?泣くほど痛いの?」

コクリとうなづく咲に舞は血相を変えてサクヤとリンに向けて叫んだ!

「せんせぇ〜〜っ咲が・・咲がケガしちゃったみたいぃ〜〜っ!どぉしよぉ〜・・もしかして・・骨折・・とか・・」


「ええ?大変!サクヤさん!」

「あら、担架必要かしら?咲、大丈夫?」

「え゛!?マジで!?・・・そこまでするつもりは無かったんだけど・・・だ・・ダイジョブ?お譲ちゃん?」


と、あまりの事態の深刻さに思わずカレハーンくんまで心配そうに咲の元に駆け寄る。
戦闘中断。


みんなが「咲ちゃんケガしちゃいましたタイヘン!」とばかりに咲の元にかけより「どこが痛いの?」と聞いてる?
ウザイナーも先程の迫力はどこへやら?不安そうに佇んでいた。




(だったらはじめから戦うんじゃねえぇえーーーーっっ!!)




ぬるいのかなんなんだかわからない敵味方の行動にバットは心の中でまたしても激しく突っ込んだ。

すると、咲は咽び泣きながらボソリボソリと告白しはじめた。



「ひくっえぐっ・・お‥しり・・・イタイ・・・」

「ほ・・ホネ・・とか?」

「ちがう・・・おととい・・えっえっ・・・マミヤセンセーに・・・叩かれたトコ・・・ぶった・・・」



『・・・・・・・』



そう言えばそうだった。

と場のプリキュア全員が思い出したように納得した。


つい一昨日のことである。

キュアブルームこと日向咲は中学生であるにもかかわらず、レッスンの後おうちにも帰らずに春日野うららに連れられて禁止されている賭博ゲーム場へと足を運びそこであろうことか賭けのカードゲームをしていたのだ。
当然場違いな少女2人、しかもアイドルの子達だったので他の客の目につき通報され、補導。

お迎えに来たマミヤ先生にその交番の中でたっぷり、それはもうキッツクうららちゃんと一緒にお尻ぺんぺんのお仕置きをもらったのだった。
メンバー全員、次の日のダンスレッスンの時に、うららと2人でマミヤに「いたいぃ〜っセンセ〜のバカぁ〜」
「おシリひりひりしておどれないぃ〜先生のバカぁ〜」

と泣きついていたのを気付いた。

サクヤが周りの目に触れないようにそっとコスチュームの中に手を入れてスパッツとパンティを引っ張り、お尻を確認してみる。


「・・・あ〜・・確かに、これはイタイわねぇ〜・・まだ赤〜く腫れてる。でもこれは咲が悪いんでしょ?だったらガマンしなさい」

「咲・・・悪いコトするからじゃない」


舞にまでそう言われてしまい涙目で膨れる咲。
結局ケガしてないコトにほっと胸を撫で下ろした一同。カレハーンくんも一安心である。



「って!そうじゃないだろ俺!ウザイナー!さあ、今度こそこのガキどもをこっぴどく泣かせてやるのだっ!」

「ウザイナァ〜〜〜っっ!」

我に返り再び戦闘へと戻ったウザイナーとカレハーンくん。
プリキュア戦士のお嬢様方もそうだった。とばかりに構えをとる。と、その時、なぜか今まで空気のように存在を消していたケンシロウがウザイナーの前に立ちはだかった。



「まて・・・バリバリ・・これ以上・・ボリボリ・・勝手なマネはさせぬ・・パリパリ・・・バット、喉が渇いた。水・・水を・・・」

「んなにさも当たり前のよーに前にしゃしゃり出てきてんだしかも何ポテチ喰ってんだどっから出したそんなもんっ!」

「あ、アタシがさっき上げたのー、ケンがお腹空いたって言うからv」

「お前はいつも余計なコトの方棒担いでんじゃねーよリン!ってかさっきからおかしいだろ色々この空気!」


「ハイ、ケンシロウ先生。アタシのイチゴオレならあるから飲めば」

「すまぬ・・・・・・ふう、ありがとう。生き返ったよ」

「別にお礼言われたいからした訳じゃないし・・・」



「アコちゅわぁぁ〜〜〜〜んっっっ・・・ソイツに無駄な餌与えないでキミもぉーーーっっっ」



「汚れ無き少女達の善意によって俺の疲れ渇ききった体にも生気を宿らせることができた・・・さあ!世を乱す悪党よ!我が北斗の奥義によって今こそ貴様に鉄槌を下してくれるっ!ハァ〜〜〜・・・」

「なっ・・なんだコイツ・・・さっきからお前行動も言動もまるっきり意味不明じゃねえか!ウザイナー!この男からやってしまえ!大体お前さっき自分の教え子が泣いてる時まるで無関心だったくせに今になって堂々としすぎだろ空気読めっつーの!」


「それはごもっとも」


とバットが小さく同意したところでウザイナーがケンシロウに腕を振り回して襲いかかる。
しかし、そのウザイナーの腕を躱してケンシロウはカウンターで必殺の拳撃を叩き込んだ。




「北斗課眼羅撮影許可申請拳!アタタタタタタタタタタタタタタタタタタタターーーっ!」


説明しよう!北斗課眼羅撮影許可申請拳(ほくとかめらさつえいきょかしんせいけん)とは?

ついこの間ケンシロウが蒼野美希がモデル撮影の仕事をしている時に「あ〜俺もカメラでプリキュアの女の子達とってみたい!しかし金がない!」と思ったその時の無念を込めた必殺拳である。
敵を大きく吹き飛ばしドビンボーの自分が高くて買うことのできないカメラに向かって敵を衝突させ、敵とカメラ双方に激しい打撃を与える残忍にして獰猛かつ自分勝手な必殺拳である!








「カメラ関係ねえええぇええぇーーーーーーっっ!!!」








派手に吹き飛んだ化け物と巻き添えになった撮影器具の姿にバットは眼の玉を剥いて力の限り突っ込んだ。
そのままぐったりとして力が抜けてしまう化け物。


「ああっ!うっ、ウザイナーがっ!!」



「今よ!みんなっ!」

隙を見計らって美翔舞がその場にいたプリキュア達に声をかける。その声にほかのプリキュア戦士たちがOK!と威勢よく返事をした。


「大地の精霊よ・・」

「大空の精霊よ・・」



「大地を揺るがす乙女の怒り、受けてみなさい!」

「邪悪な力を包み込む、薔薇の吹雪を咲かせましょう!」



「刻みましょう、大いなるリズム、ファンタスティックベルティエ!おいで、ファリー!」
「ファファー!」

「弾き鳴らせ、愛の魂!ラブギターロッド!おいで、ソリー!」
「ソソー!」

「おいで、シリー!」
「シシー!」



「とどけ、愛のメロディー!キュアスティック・ピーチロッド!」

「響け、希望のリズム!キュアスティック・ベリーソード!」

「癒せ、祈りのハーモニー!キュアスティック・パインフルート!」

「歌え、幸せのラプソディ!パッションハープ!」




「今!プリキュアとともにっ」
「奇跡の力を解き放てっ!」

「プリキュア・ツインストリームスプラーシュっ!」


「プリキュア・エメラルドソーサー!」

「ミルキィローズブリザード!」


「プリキュア・ミュージックロンド!」

「ソウルロッド!プリキュア・ハートフルビートロック!」

「シの音符のシャイニングメロディ、プリキュア・スパークリングシャワー!」


『わるいのわるいの飛んでいけっ!』

「プリキュア・ラブサンシャイン・・」
「プリキュア・エスポワールシャワー・・」
「プリキュア・ヒーリングフレアー・・・」

「吹き荒れよ、幸せの嵐!」

『フレーッシュ!!』

「プリキュア・ハピネスハリケーン!」


『はぁーーー・・・』

『3拍子、1、2・・フィナーレ!!』




まさにとどめと言わんばかりのプリキュア戦士達による浄化魔法の波状攻撃。
それぞれの得意技が一度にウザイナーを包み込み、そのまま合体魔法と化して光の中にかき消した。
光の中で化け物は「ウザァ〜イナァ〜っ」という断末魔とともに弾け飛び、辺りは静寂が戻った。



「なんだとぉーっ!?ちくしょーっ!まさか失敗とは・・・これでは社長に合す顔がないではないかぁーーっ!」


と、そんなことを喚きながらカレハーンくんは一目散にその場から逃げ帰ってしまった。





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「ハイ!それじゃあ、今日もお疲れ様!途中トラブルもあったけどよかったよ美希ちゃん!」

「ハ〜イ♪お疲れ様でしたぁ〜v」


途中、ワルサーシヨッカーの乱入というアクシデントに見舞われつつも美希のモデルの仕事はなんとか過程を終了し、成功裏に終わった。
周りのスタッフもホッと一安心である。

「お疲れさま美希さん、最後のポーズ、とてもステキだったわ」

「ありがとこまちさん!でも、ミキたんの実力はまだまだこんなものじゃないんだからっ!いずれは世界にはばたくスーパーアイドルモデルになるのが夢だもんね♪」

「スゴくステキな夢ね美希ちゃん!応援してるわよ」

「えへへ、リン先輩もありがと!心配しないで、だって・・あたし、完璧だもの!♪」


と、そこで美希の携帯電話、リンクルンが鳴り響いた。
この音はメールの着信音。何があったのだろう?とラブ以下フレッシュの面々が首をかしげたが当の美希は「あ♪来た来たv」と嬉々として開くとそのまま
「ゴメ〜ンvちょっと急用入っちゃったからぁ、先に帰っててくれる?後から追いつくからぁ〜v」

と、そう言って美希はみんなを残して走り去ってしまったのだ。


「美希・・どうしたのかしら?ブッキーなにか知ってる?」

「さあ?美希ちゃん、今日の予定はこの撮影だけだと思うけど・・・ねえ先生?」


東せつなと山吹祈里にそう言われて、サクヤ先生も頬に手を当てて美希の行く手を追っていた。





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「きゃぁ〜〜〜〜っっ落札決定!vやったやったぁ!」

1人控室に戻った美希は小躍りして喜んだ。
戦いの前に落札したミュールが思惑通りに美希の買い物かごに入っていたからだ。あとは期日までに料金が自分のカード、厳密にいえばパパかママのカードから落ちればまた美希のファッション財に新たな服が加わるのだ。

「今日はお仕事もうまくいったしぃ〜、シヨッカーもやっつけたしぃ、カワイイミュールも手に入ったし、しかもママ達のお金でv言うことなしってカンジ?あたしカ〜ンペキ!」

上機嫌のまま帰ろうとした完璧な美希ちゃん。

しかし、完璧にセッティングしたであろう計画が、控室を出た直後、音を立てて崩壊しようとは露ほども知らなかった。






「今帰りなの?美希?」

「・・・・・・・せ・・センセ・・帰って・・なかったの?」


固まった。

美希は微動だにできず、ただただ今の自分の運命をよく働かない頭で必死に考えるだけだった。


なんと帰ったはずのサクヤ先生が、腕を組んで扉の向こうで美希を見つめていたのだ。しかも怖い顔で。


「どーゆーコトかしら?美希」

「な・・なんのコト?あたし・・・わ・・かんないなぁ・・」

まだバレてないハズ。バレてないハズ。

大丈夫っ!

と、必死で自分を落ち着かせる美希、サクヤが今の自分の独り言を聞いていたという証拠はない。もしかしたらやり過ごせるかもしれない。
一縷(いちる)の淡い期待をかけ、引きつりそうになる顔を必死で取り繕い、震える声を精一杯平静を装うように整え、美希はサクヤをごまかした。
今日のあたしは完璧。今日のあたしはいつにもまして完璧。大丈夫、うまくいく。そう自分に言い聞かせる。
だが、そんな完璧な美希たんをサクヤ先生はタメ息をつきながらゆっくりと奈落へと突き落とした。



「落札決定。手に入った。ママ達のお金・・・ねえ、ズイブンと楽しそうな独り言が聞こえたけど?」

「!!・・・そ・・それは・・あのっ・・違う!違うのよセンセー!そうじゃないのっアタシ別にナンショウで買い物なんかしたんじゃないのよっ!ただ、その・・・ま、ママに頼まれてたもののコトだから・・ハハ、ね?」

「ナンショウ?あら、先生は今落札と言っただけよ。ネットオークションの南商のコトなんて一言も言ってないわ」


美希の目の前が不意に真っ暗になった。


終幕である。
完璧だった美希たん。気の緩みと油断が、まさに完璧だった自分の計画にヒビを入れ、そして地獄へと突き落とした。


「あ・・・あ・・・・あぁぁ・・・」

ドアにもたれかかってヘナヘナとへタレこむ美希。

「美希、まさか・・中学生なのにネットオークションに1人で手を出したの?」

「えっ・・えっと・・あのっ・・そのぉ・・・」

しどろもどろの美希。
しかし言い訳を必死に探そうとした時、サクヤ先生の久々の「答えなさいっ!」という怒声を聞き、ビクッと恐怖にかられる。
そして、半泣きになりながらゆっくりとコクリ。うなづいた。



「いらっしゃいっ!」

「っ!・・きゃっっ・・イタっ、イタタタタタタ・・・・っ」


美希がうなづいた1拍後、サクヤは短く息を吐くと美希の耳を引っ張って控室の中へと入り、そのままドアを閉めると控室の中のソファに直行し、座るとその脇に美希を立たせる。
震えている美希にそのままキツクお説教。


「プリキュアのルールでも学校のルールでも、自分でそういう商取引には手を出さないって書いてあるでしょ?どうしてきまりが守れないの!?」

「だ・・・だって・・欲しくって・・・」

「言い訳は聞きません。ホラ、美希。わかってるでしょ?」


サクヤは有無を言わさずに美希の可愛いホットパンツの上からパンっとお尻をひとつ叩いて言う。
これはサクヤのやり方で、自分でお尻を出しなさい。という意味だ。
それをわかっている美希、しかし素直にお尻を出さなければ罰が増えるとわかっていてもこれから自分が味わう苦痛と恥ずかしさへの恐怖感から、中々素直に動けない。
それを見て取ったサクヤは眼を閉じると美希の体を引き寄せ、仕方ない。という感じで美希のホットパンツに手をかけ、そのまま膝下辺りに引き下ろす。


「せっ・・センセっ・・ちょっ・・とぉっ!・・や、ヤダあぁっっ!」

「静かになさいっ!あなたが悪い子だったから今からお仕置きされるんでしょ?久しぶりに会ってちょっと成長したと思って感心してたけど・・・まだまだだったわね」

そのまま今度は下のパンティまで一緒に同じ位置まで引き下ろす。
美希の健康的で、それでいて芸術的に均整がとれた美しく、しかしまだ中学生っぽい可愛らしいお尻が姿を見せる。

サクヤは身を捻って抵抗を続ける美希を腕力で取り押さえると、そのまま自分の膝の上にサクヤを引き倒してちょうど目の前にお尻が来るように体を固定する。
対する美希、ついに観念したか?いや、まだ観念はせずに体ではなく言葉で必死にサクヤに哀願した。



「ぅわあぁ〜〜〜んっっ・・センセぇ〜、ヤメテよぉ〜、こんなの女の子にヒドイよぉ!お願いっオシリぺんぺんだけはヤメテぇ〜〜っ別のオシオキにしてぇえ〜〜〜っいやあぁーーーーっっ」

「PCA21のルール、美希は忘れてないハズよね?悪いコトした子は・・・お尻ぺんぺんのお仕置きっ!」

そんな美希ちゃんの哀願空しく、一蹴されたその瞬間、サクヤ先生はハァ〜・・と息を吐きかけた手を大きく振り上げ、やわらかでぷりんっとした美希ちゃんのお尻の柔肌めがけてキツイ一打を見舞った。




ぴっしぃぃーーーっ!!

「っっぃ・・・いっったああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!?」

パシィーーーーンッッ!

「いっっだあぁぁぁ〜〜〜〜〜いぃぃ〜〜〜〜っっ」


控室の静寂を打ち破った破裂音と美希の絶叫。
お尻が一撃で波打ち、最初のキツイ2発で哀れ、キレイで真っ白だった美希ちゃんのお尻の柔肌に、手の後が赤々と浮かび上がる。
サクヤはさらにそこから3発4発と続けて美希のお尻を叩く、美希はと言えば久しぶりのサクヤ先生のお尻ぺんぺん。その痛みと厳しさをたったの2発で否が応でも思い出させられ、心の底からあの時の自分の失策を後悔していた。


ぱんっ! パンッ! ぺんっ! ペンっ! ぱちんっ! パチィンッ! ぺちんっ! ペチィンッ! ピシィっ! バシィーン!

「きゃっっ!・・ひいっっ・・ひいぃぃっっ・・きゃああぁぁっっ!・・いたっ・・いたいっいたあぁぁいっっ・・・せっ・・ん・・せっ・・あぎいっっ・・・いたいよぉっ・・きゃうっっ!・・やんっっ・・いたいのぉぉっ」

「お仕置きだからね。痛いのは当たり前よ。さあ、まだまだ足りないわよ」


ぱぁんっ! パァンっ! ぺんっ! ペンッ! ぺーーんっ! ぱーんっ! ばしぃっ! バシッ! バシッ! バシィ〜ンッ! びしっ! ビシィンッ! パシィィィっっ!

「いやあぁぁ〜〜〜っっ・・あぎゅっっ・・いぎいぃっっ・・いっ・・やあぁあぁっっ・・やんっやんっ!・・やあぁぁんっっ!・・いっ・・たあぁぁぁっっ・・いだあぁぁいぃっ・・・ちょっと・・・ひぃやあぁぁっっ?・・まっ・・て・・ぎゃああぁっっ・・・いきゃあぁっっ・・いっきゃあぁーーーーっっ・・きゃうぅぅ〜〜〜っっ?」


「どうして自分勝手な理由でお約束守れないの?美希はもうすっかり一人前になったと思って安心してたのに・・・先生悲しいわ」

「ひぃぃ〜〜〜ん・・・だ・・だってぇぇ〜〜・・・ふえぇぇぇ・・・」

「だってじゃっ!・・ありませんっ!」


ぱちぃ〜んっ! ぺちぃ〜んっ!

「あぎゃあぁ〜〜っっ・・うっきゃあぁぁんっっ・・・うええぇっっ・・ああぁぁ〜〜〜んっ・・も、もぉヤメテえぇぇーーーっっ・・・痛い、イタイよぉ、イタイんだってばぁぁ・・・オシリぃ・・ヤケ・・ちゃうぅ」

「久しぶりに帰ってきてみて・・やっぱりまだまだ美希も子どもだってことが先生よくわかりました。ホラ!もっと!オシリ!」

ばちぃーんっ! べちぃんっ! ベッチィーンッ! ぴしゃんっ! ピシャンっ! ピシャーン!

「きゃあぁぁ〜〜〜んっっ・・やっ・・やっ・・やあぁぁ〜〜〜んっっ・・ぅっきゃああぁぁ〜〜〜〜っっ・・キャアァーーーっっ!い・・いだぁぁいぃ・・・いだいよぉ、いらいよぉ・・・ひくっ・・ぐしゅっ・・えっく・・ひぐっ・・・も・・ヤメ・・てぇ〜〜・・・」

「美希がちゃんと反省できるまでは先生許してあげれません!まだまだ美希のオシリは反省が必要みたいよ。ホラ!」

パチィーンっ! ぺちぃーんっ! ぺんっぺんっ! ぴしゃっぴしゃっ! ぴしゃんっ! ピシャンっ! ピシャーーーンッ!

「ぎゃあぁ〜〜〜〜んっっ・・うえぇぇぇ〜〜〜〜〜んっっ・・ひっひっ・・ひい〜〜〜ん・・あぁぁ〜〜〜んっ・・いっ・・いだぁぁ〜〜〜〜・・・・うえぇっっえっえっ・・・・いたあぁぁいぃぃ・・ひぎゃあぁぁ〜〜〜〜・・・・」


「まだよ!美希!自分がお約束破ってどんなに危ないコトしたか・・・しっかり反省しなさいっ!」

「うわぁぁ〜〜〜〜んっ・・あぁあぁ〜〜〜〜〜〜んっっ・・・ぅええぇぇ〜〜〜〜ん・・・」


バチィーンッ! ベチィーーンっ! ばっちんっ! べっちんっ! ぴしゃっ! ピシャンっ! ピシャーンッ!

「あっきゃあぁぁ〜〜〜〜っっ・・・ぴっ・・ぴぃっ・・・ぴぎゃあぁ〜〜〜んっっ・・・うえっうえっ・・うえぇぇえ〜〜〜〜んっっ」



サクヤはここで手を1度止めて美希のお尻を確認した。
もとの張りがあり、真っ白でプリンのようだったお尻ではない。もうサクヤ先生のお仕置きの手の平が無数に折り重なり、赤々と腫れ上がらせて一回りも大きくなって見えた。
サクヤはお尻を手の平で少し撫でながら、そろそろか?と頃合いを見計らってもう涙と鼻水、脂汗でくしゃくしゃに泣いている美希にゆっくり話しかけた。



「ねえ美希?ちゃんと反省できたかしら?」

「ひぐっ・・えぐっ・・・・ひっく・・(コク・・)」

「そう、じゃあ後15回、イタイの行くけどガマンできるわね?」

「ひぐっ・・えぐぅっ・・・やだよぉ・・ヤダ。も・・イタイのヤダぁ・・・勘弁してぇ・・・ひくっ」



「紅山庵脚亜拳(こうざんあんぎゃあけん)!」



説明しよう!

紅山庵脚亜拳とは!?
兄とともに黒山穏形拳の伝承者である木村朔夜が悪い子たちを躾けるために開発した仕置き拳法である。
力を込めた掌撃を手首のスナップを効かせ高速の鞭の如くしならせて少女たちの無防備なお尻をそれぞれ左右に十数回連続して叩く技である。
これを喰らった悪い子ちゃんはお尻が真っ赤っかに腫れあがるだけではなく、やがてそれが赤黒くブラックチェリー色に変色し、お仕置きの後もその痛みに泣き、悶絶し、苦しみよく反省できるようになるという何とも恐ろしい必殺拳である。


ぱんっ! パンッ! パーンッ! ぺーんっ! バチィッ! べちぃんっ! バシッ!バシッ! びしぃっ! ビシィンッ! ぴしゃっ! ぴしゃんっ! ピシャンっ! ピッシャンッ! ピシャアァンッ! ぴっしゃあぁぁーーーーんっっ!



「あんっきゃあぁぁ〜〜〜〜〜〜〜んっっ・・・きゃあぴいぃいぃ〜〜〜〜〜っギャピぃぃ〜〜〜〜んっっ・・びぃええぇぇ〜〜〜〜〜〜んっっ」







「美希、痛かった?反省できたかしら?」

お仕置き後、サクヤはもうずいぶん背の高くなった美希を膝の上に抱っこして、今まで叩いていたお尻を濡れタオルも使いながら優しく撫で、冷やし、そして髪の毛もゆっくり撫でてあげていた。
涙で声が詰まって中々話すことができない美希はそのまま無言でコクコク必死でうなづいた。
もうぶたないでっ!と言っているようでなんとなくおかしくなってしまい、サクヤは苦笑した。

お尻はもう真っ赤。サクヤの手形が何枚も何枚も折り重なり、そして大きさも1,5倍くらいに膨れ上がってるようだ。
美希はやっとサクヤ先生に許されたという安心感か?それとも叩かれたお尻がよっぽど痛いのか?

サクヤ先生の胸に顔をうずめてずっと泣いている。

「美希、ホラ、悪いコトしたらなんていうんだった?」

「うえっ・・えっ・・えぐえぐっ・・えっく・・ひっく・・ぐしゅっ・・ぐすっくすんっ・・」

「ミーキ?」

「ふえぇっ・・ゴメン・・なしゃい・・・」

「そうね。イイコね。ね?ネットオークションとかはいつどこにどんな罠があるかわからないの。お金をだまし取られることもあるし・・・そうなったらイヤでしょ?子どもだけでは絶対に使わないコト。いいわね?それにいくら自分のママやパパだからって勝手にカードを使うのはいけないことよ?気をつけなさい」


「ハイ・・ひくっ・・ゴメンなさい」

「イイコね。美希」


そういってサクヤ先生は美希のおでこにチュッとキスをした。






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翌日。


「ねえねえ見て見てみんな!昨日の美希ちゃんの写真、さっそく仕上がったのよ!雑誌に載る前にちょっと見てみなさいよ」


PCA21の楽屋に冨永リンが駆け込んできて、昨日撮影した写真をいち早くメンバーに見せていた。


「スゴーイ、さすが美希ちゃんキレ〜」

「やっぱりモデル志望の子は違うわね〜、ね、今度アタシにポーズの決めかた教えてよ!」

「もぉ〜、のぞみちゃんもなぎささんもホメすぎですってぇ、でも、それじゃ今度一緒にモデルの仕事やってみましょ」



サクヤはそんなイキイキしている美希や他の子どもたちを見て、心底嬉しそうな顔をした。

「昨日は帰ってきてそうそうにイヤな役やらせちゃったみたいねサクヤ」

そう言いながらマミヤがコーヒーを持ってくるのを受け取るサクヤ

「大丈夫よ。久しぶりだったけど腕は落ちてなかったわ。フフ・・あの子たちを正しい道にちゃんと導いてあげるのも私たちの大切な仕事だものね。そのためなら、多少恨まれたって構わないわ」

「恨むなんて・・・そんなコトあの子たちにあるわけないわよ」

そう言って子どもたちを見やるマミヤ、それに気づいた美希が笑顔で2人に走り寄ってくる。


「ホラ、マミヤ先生にサクヤ先生!アタシの写真!昨日撮ってもらったヤツ、どう?」

「とっても可愛くとれてるわよ。よかったわね美希」

「先生たち、時々厳しいかも知れないけど・・・アナタには期待してるのよ」

言われてちょっと顔を赤くして、「きのうは・・ゴメンナサイ」という美希。その彼女をサクヤはゆっくり抱きしめた。



「オーイ、ダメだ美希ちゃん!サクヤさん!ちょっと助けてくれ」

「バットさん?どうしたの?」

「何かあった?」

そんな時、バットがヘトヘトになってみんなに助けを求めに来た。何かあったか聞かれてバットは部屋の中央を指さす。



「ケンシロウ!カメラをよこせっ!」

「よこさぬ。これはリンより俺が預かったものだ」

「なぁにぃ〜?ならばその預かったもの、この拳王が力づくでわがものにしてくれるわ!」

「ラオウ、カメラは私も欲しい文明の利器。好きにはさせん。あなたが握るはカメラではなく死兆星だ!」


見ればまたしても北斗三兄弟が今度はカメラを巡って不毛な争いを繰り広げていた。
またしても拳法の喧嘩に発展しようかとみんなが立ち退いた時、蒼野美希がケンシロウの持っていたカメラをひょいっと見事にかっさらってしまった。


「なに!?」

「我らからものを奪うとは!?」

「小娘ぇ!うぬのやったことを理解しておるかぁ?どうやら命がいらぬようだなぁ」

「えっとオジサンたち、使うならいいけど、このカメラもともとアタシがリン先輩にあげたものだからさ・・使いたいならお金払ってよね。レンタル料1回100円」


「なにいぃ〜〜〜〜っっっ?カネーーーーっっ!?」

「またしてもカネの脅威かあぁーーーーっっ!?」

「おのれぬかったわぁあぁ〜〜〜っっこの拳王ともあろうものがカネ如きを制圧できんとはあぁ〜〜なんたる時代だあーーーっっ!」


金の一言で北斗三兄弟。
あっという間におとなしくなって蹲り、無念の表情を浮かべていた。


「おぉーー、スゲエぞ美希ちゃん!あの傍若無人KY兄弟を一言でノックアウトしたぞ」

「ホントー、ケンたちお金ないからカメラ借りれないね」

「・・・ってリン!お前いつからいた!?」

「さっきからー^^」



「えへへvアタシ・・完璧!♪」



どこまでも爽やかな美希の笑顔に、北斗三兄弟なすすべなく美希に「ちょっとでいいからカメラ〜〜・・」と泣きつくだけだった。
金がものをいう世知辛い世の中に涙するだけだった。







金払え。

     子どもに媚びし

          三兄弟。





                   つ づ く